黒澤明が選んだ100本

 文藝春秋(1995年/公開年度順)
 

1. 散り行く花
  1919年 アメリカ
  監督:D・W・グリフィス
  出演:リリアン・ギッシュ
     リチャード・バーセルメス

リリアン・ギッシュって清楚な感じでおとなしくってね。
ドロシー・ギッシュという人と姉妹でさ、ドロシーの方は少し色っぽいんだけど、リリアンの方はかわいい子でね。
だからよけい痛々しくてさ。
『八月の鯨』見たら、リリアン・ギッシュが変わってないって、ひと目で判るんだ。
おばあさんになってるけど、いい感じに年とっててビックリしたよ。

2. カリガリ博士
  1919年 ドイツ
  監督:ロベルト・ウィーネ
  出演:コンラート・ファイト
     ヴェルナー・クラウス

ドイツ表現主義の代表みたいな作品だけど、今見てもおもしろいヨ。
表現派という絵があって、全部そういう具合にセットが作ってある。
こういう昔の作品には学ぶところが沢山あるヨ。

3. ドクトル・マブゼ
  1922年 ドイツ
  監督:フリッツ・ラング
  出演:ルドルフ・クライン=ロッゲ
     ベルンハルト・ゲッケ

子供の頃見たんだけれど、徳川夢声さんがやっていた頃なんだけど、兄貴も弁士だったから連れて行かれて、おもしろかったね。

4. チャップリンの黄金狂時代
  1925年 アメリカ
  監督:チャールズ・チャップリン
  出演:チャールズ・チャップリン
     ジョージア・ヘイル

チャップリンっていう人は、俳優としても才能があってさ、喜劇っていうのは一番ムズカしいんだ、泣かせるのは楽だけどね。
それで、監督としても才能があって、音楽にも精通していて、自分で困ってしまうぐらい。
本当に才能あふれた人だったと思う。何かビートたけしってそういうところがあるとおもうヨ。

5. アッシャー家の末裔
  1928年 フランス
  監督:ジャン・エプスタン
  出演:シャルル・ラミ
     ジャン・ドビュクール

サイレントなのに、本当に映像だけなのに、音が聞こえてくるみたいなんだ。
その表現力は素晴らしいものがあるから、ボクはいつも映画撮る前に、もしこれをサイレントでやったらと考えてみることにしている。

6. アンダルシアの犬
  1928年 フランス
  監督:ルイス・ブニュエル
  出演:ピエール・バチェフ
     シモーヌ・マルイユ

いきなり目玉が映って、それをカミソリでシュツと切るところから始まってさ、凄いんだ。
夢を見ているときみたいに、フィルムは支離滅裂につながって、ダリのシナリオを鮮烈に表現していく。
シュールレアリズムの手法を、『羅生門』の時なんかすいぶん思い出して学びましたね。

7. モロッコ
  1930年 アメリカ
  監督:ジョセフ・フォン・スタンバーグ
  出演:ゲイリー・クーパー
     アドルフ・マンジュー

いかにも映画っていうシャシンでしょ。
すごく安い費用で製作してるんだけれども、影がチラチラチラチラしているところ、キャメラの場所を変えてうまく撮っている。

8. 會議は踊る
  1931年 ドイツ
  監督:エリツク・シャレル
  出演:ルドルフ・フォルスター
     フリッツ・ラスプ

これはプレイバックという方式を初めて使った作品なんだ。
オペレッタで歌いあっていくんだけれど、移動なんかもうまくてさ、とても傑作ですよ。
やっぱり古い映画にはつくづく学ぶべきところがあると思いながら見直した作品なんだ。

9. 三文オペラ
  1931年 ドイツ
  監督:G・W・パプスト
  出演:ヴィリー・フリッチ
     リリアン・ハーヴェイ

『三文オペラ』っていうのは、ボクも1度撮ってみたいと思っていたんだけれど、ずいぶん沢山の人が『三文オペラ』やったけど、パプストのがピカイチだとおもう
すごい良いんだヨ。

10. 未完成交響楽
  1933年 ドイツ/オーストリア
  監督:ヴィリ・フォルスト
  出演:ハンス・ヤーライ
     ルイーゼ・ウルリッヒ

大変可愛らしい作品でね、ボクは大好きなんだ。
シユーベルトの曲を実に上手に使ってるし、何故『未完成』を三楽章から先書けなかったかということをドラマにうまく盛り込んでいて、良く出来ていると思う。

11. 影なき男
  1934年 アメリカ
  監督:W・S・ヴァン・ダイク二世
  出演:ウィリアム・パウエル
     マーナ・ロイ

この人は活劇の名人だったからテンポが良くてね。
ダシール・ハメットの原作なんだけど探偵夫婦と二人の愛犬がすごくうけてさ、シリーズになったんだけど、やっぱり一番最初のこの作品が一番おもしろい。

12. 隣の八重ちゃん
  1934年 日本
  監督:島津保次郎
  出演:逢初夢子
     岩田祐吉

島津のオヤジって呼ばれていて、本当の意味で現場からたたき上げた人でね。
そういう助監督もしっかりやっててという、たとえばジョン・フオードとかウィリアム・ワイラーみたいなそういう人の作品ていうのは、一種違うんだね。
何ていうか、活動屋クサイと言うのか、映画の良いころの感じなんだよ。

13. 丹下左膳餘話 百萬兩の壺
  1935年 日本
  監督:山中貞雄
  出演:大河内傳次郎
     喜代三

山中さんていう人は助監督の頃本当におとなしくて、何かポーッとしていたようだね、
何かボソボソいっててさ。
でもさ、監督になったら急に雄弁になってさ、すごい才能なんだヨ。
本当に早く亡くなっちゃって日本映画の大きな損失だね。
そのうえ日本の映画会社は、フィルムをちゃんと残してないんだから、ハラがたっちゃうヨ。
何考えてるんだって。

14. 赤西蠣
  1936年 日本
  監督:伊丹万作
  出演:片岡千恵蔵
     杉山昌三九

伊丹さんのこの作品はすごく斬新でね、色々な試みをしていてね、すごくおもしろかった。
伊丹さんは、すごくボクのことホメてくれたりして、うれしかったよ。

15. 大いなる幻影
  1937年 フランス
  監督:ジャン・ルノワール
  出演:ジャン・ギャバン
     ピエール・フレネー

ルノワールさんはパリに行った時たずねて来てくれて、大先輩なのに"お目にかかれて光栄です″なんて言われてもう困っちやって、帰る時も車が角をまがるまでずっと見送ってくれて感激しちゃったヨ。

16. ステラ・ダラス
  1937年 アメリカ
  監督:キング・ヴィドア
  出演:バーバラ・スタンウィック
     ジョン・ボールズ

女って強いっていうか母親は子供の為なら何でも出来るんだっていうところをバーバラ・スタンウィックが名演していてね、最後のシーンはほろっと来ちやったよ。
それからずいぶんしてベット・ミドラーって歌を唄う女の人がやったけど、あれもなかなか良かったよ、うまかったよ。

17. 綴方教室
  1938年 日本
  監督:山本嘉次郎
  出演:高峰秀子
     小高まさる

ヤマカジさんは本当に良い先生だった。
忙しい時代だったし、何から何までヤマさんがボクにやらせるから、少しおもしろくなかったんだ。
そうしたら奥さんが"山本、喜んでましたよ、黒澤は何でも出来るようになったぞ″って言うんだよ。
あっそうか、ヤマさんはボクに編集から、衣装小道具や何から何までやらせるのは、一つ一つ教えてくれていたんだって判ってさ。
今本当にそれが役にたってるんだ、感謝している。

18. 
  1939年 日本
  監督:内田吐夢
  出演:小杉勇
     風見章子

この内田吐夢って人はものすごくおもしろい経歴の待ち主でね、ルンペンなんかもやったらしいヨ。
俳優もやってたんだよ。
ヘンな人でさ、確かハリウッド帰りの人の助監督もやってたんだ。
大作も良いけど、ボクは最初の方の作品が好きだね、『限りなき前進』とかね。
でもフィルムがほとんど残ってないんだもんね。
日本でもフィルムの保存法を考えて欲しいよ。

19. ニノチカ
  1939年 アメリカ
  監督:エルンスト・ルビッチ
  出演:グレタ・ガルボ
     メルヴィン・ダグラス

とってもシャレた作品でね、ガルボが出ているんだけど、それまでとはぜんぜん違って、コメディも上手でびっくりしたよ。
たしか、脚本をビリー・ワイルダーが書いているから、セリフもとても良いしね。
ルビッチはサイレント時代からの人でね、シネ・オペレッタっていうジャンルも作った才能のある人だよ。

20. イワン雷帝 第一部
  1944年 ソ連
  監督:セルゲイ・エイゼンシュテイン
  出演:ニコライ・チェルカーソフ
     リュドミラ・ソエリコフスカヤ

ぼくの『羅生門』をヴェネチア映画祭に出してくれたラングロワという恩人が、『イワン雷帝』の宴会のシーンのカラーを見てみろって。
君こそカラーを撮るべきだっていわれて、見たら凄いんだ。
だから『どですかでん』で初めてカラーをつかって『影武者』で本式にカラーと取り組んだから、その時はもう亡くなっていたラングロワさんに見せたいな~と言ったら、ウィリアム・ワイラーさんの奥さんが「きっと(天国から)カンヌに来ますよ、ラングロワさん見に来ますよ」って言ってくれて、ぼくはそれまで映画祭が苦手だったのに、その時からカンヌ映画祭に出かけるようになったんだ。

21. 荒野の決闘
  1946年 アメリカ
  監督:ジョン・フォード
  出演:ヘンリー・フォンダ
     リンダ・ダーネル

ジョン・フオードといえば西部劇でしょう。
『荒野の決闘』は映画の手本みたいな作品だからね。
馬に乗って通る人、その風情がまさに詩であるというような人がいい時に出てくる、そこが凄いんだよ。

22. 素晴らしき哉、人生!
  1946年 アメリカ
  監督:フランク・キャプラ
  出演:ジェームズ・スチュワート
     ドナ・リード

やっぱり映画っていうのは、見終わった後にあ~幸せだなっていうか、良い気持ちじやないといけないヨ。
そんなところがね、生きてて良かったって思うような、暖かい気持ちになれる善意に満ちている、それがキャプラなんだよ。

23. 三つ数えろ
  1946年 アメリカ
  監督:ハワード・ホークス
  出演:ハンフリー・ボガート
     ローレン・バコール

チャンドラーものでは、一番おもしろいと思うヨ。
ハードボイルドってむずかしいんだけれど、さすが小道具からたたき上げた本物の映画人としての腕はすごいヨ。

24. 自転車泥棒
  1946年 イタリア
  監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
  出演:ランベルト・マジョラーニ
     エンツォ・スタヨーラ

つらい話だよね、もう色合いも何もかも見てるとすごく苦しくて苦しくてさ、ネオリアリスモの代表作だねこれは。
そういう意味でも一つのスタイルを確立している素晴らしい作品ですヨ。

25. 青い山脈
  1946年 日本
  監督:今井正
  出演:原節子
     池部良

リメイクというとすぐ『青い山脈』か『伊豆の踊子』ってなっちやうんだけど、何でも一番最初のがたいてい良くてさ。
今井さんのこれはとてもハツラツとしているし、釜さん(藤原釜足)のところなんかすごく良いでしょ。
今井さんは『にごりえ』なんかもすごくステキだったね。

26. 第三の男
  1949年 イギリス
  監督:キャロル・リード
  出演:ジョセフ・コットン
     オーソン・ウェルズ

複雑なストーリーをきちっと映画にしている。
ロバート・クラスカーのキャメラは本当に素晴らしくてね。
実にキャメラワークの勉強になった作品だし、今見てもおもしろいし、上等な映画だよ。
『邪魔者は殺せ』なんかも良いし、ドキュメンタリー風でうまい監督です。

27. 晩春
  1949年 日本
  監督:小津安二郎
  出演:笠智衆
     原節子

独特のキャメラワークで、外国でもマネしている監督もずいぶん多い。
小津さんの映画は海外ではちゃんと見られているんだ。
本当に学ぶところが多いからね。
日本の映画を志す若い人にもどんどん見て欲しいですね。
小津さん、成瀬さん、溝口さんが居て、映画撮ってた時代は本当に良い時代だったね。

28. オルフェ
  1949年 フランス
  監督:ジャン・コクトー
  出演:ジャン・マレー
     マリア・カザレス

ジャン・コクトーっていう人はもともと詩人だったからね、映画も詩みたいなんですよね。
死神がオートバイに乗っていたり、とてもフシギなタッチでね。
独特の美意識みたいなものがおもしろい。

29. カルメン故郷に帰る
  1951年 日本
  監督:木下恵介
  出演:高峰秀子
     小林トシ子

日本のカラーのはしりだったんだけど、すごくおもしろかったね。
カルメンたち二人のストリッパーがふるさとにドヤドヤ帰ってきてさ、大騒ぎになるんだけど、そこのところもすごく良く描けていてね。

30. 欲望という名の電車
  1951年 アメリカ
  監督:エリア・カザン
  出演:ヴィヴィアン・リー
     マーロン・ブランド

エリア・カザンとは東京国際映画祭に来た時にお会いして、とても気さくな人だと思ったんだけど、関係者に聞くとすごく気ムズカシイらしいよ。
タキシード着るのがめんどうだっていう話から気が合って話し込んじゃったんだけれどね。

31. 嘆きのテレーズ
  1952年 フランス
  監督:マルセル・カルネ
  出演:シモーヌ・シニョレ
     ラフ・ヴァローネ

カルネは『天井桟敷の人々』で有名だけど、小品だけれどこの映画は好きでね。
すごくクールな眼で撮ってるんだヨね、やっぱりシナリオがしっかりしているといかに違うかってこともある。

32. 西鶴一代女
  1952年 日本
  監督:溝ロ健二
  出演:田中絹代
     山根寿子

溝口さんはよっぽど女の人のことでひどい目にあったんじゃないか、なんてよくふざけて話したんだけど、ここまで女の人を描けるなんてさ、ボクには出来ないよ。
ゾ~ッとしちゃうでしょ。
ともかく凄いよ、美術もさ、あの長まわしもね。
ミゾさんには本当に沢山教えられたことがあったよね。

33. イタリア旅行
  1953年 イタリア
  監督:ロベルト・ロッセリーニ
  出演:イングリッド・バーグマン
     ジョージ・サンダース

ネオリアリスモの代表的作家の一人で、ゴダールとかトリュフオーなんかがヌーベルバーグのお手本としていた人なんだ。
本当に生々しい、リアリズムの追求がとても新鮮で、ボクもずいぶん勉強させてもらったよ。

34. ゴジラ
  1954年 日本
  監督:本多猪四郎
  出演:志村喬
     河内桃子

本多っていう男は本当にマジメでさ、イイヤツなんだよ。
もしゴジラが出て来たらさ、自分の職務なんて忘れてほっぽり出して逃げちゃうヨね。
それなのに職員なんかがちゃんとマジメに誘導したりしていて、本多らしいなって思って、良いんだよね。

35. 
  1954年 イタリア
  監督:フェデリコ・フェリーニ
  出演:アンソニー・クイン
     ジュリエッタ・マシーナ

フェリーニの美術はステキだね。
それ自体が美術そのものっていう感じで。
ああいう独特な才能の人はもう居ないよね。
何か映像の中にものすごい存在感があって、強烈な衝撃があるんだ。
何度も会ったんだけど、テレ屋でさ、映画の話、全然してくれないの。

36. 浮雲
  1955年 日本
  監督:成瀬巳喜男
  出演:高峰秀子
     森雅之

成瀬さんて人はさ、本当に怖い人だったよ。
役者の演技が気に入らないと"違います"って言ってじ~っと黙って座っているんだ。
そりゃ役者は天変だよ。
自分で考えてさ、色々やってみなくちゃいけないんだから。
ボクなんて甘ちょろくて、つい口出しちゃうからね。

37. 大地のうた
  1955年 インド
  監督:サタジット・レイ
  出演:サビル・バナルジー
     カヌ・バナルジー

サタジット・レイに会ったら、あの人の作品が判ったね。
眼光炯炯としていて、本当に立派な人なんだ。
『蜘蛛巣城』ヴェネチア映画祭で『大河のうた』に負けた時、これはあたりまえだと思ったよ。

38. 足ながおじさん
  1955年 アメリカ
  監督:ジーン・ネグレスコ
  出演:フレッド・アステア
     レスリー・キャロン

この作品ボク好きなんだよね。
ボクがこれ好きだって言うとヘンに思う人も多いかもしれないけど、なかなかうまく出来ているしさ、すごくブキッチョだからさ、アステアみたいのに憧れがあるかもしれないね。
実はレスリー・キャロンていう女優が好きなんだけどさ。

39. 誇り高き男
  1956年 アメリカ
  監督:ロバート・D・ウェッブ
  出演:ロバート・ライアン
     ヴァージニア・メイヨ

あの頃ライオネル・ニューマンの主題歌が大ヒットしてね。
ステキだったヨ。
ロバート・ライアンをとてもうまく使っているし、キャメラワークなんかも素晴らしい。
さすがにルシアン・バラードはキャメラマンの手本だと思う。

40. 幕末太陽傳
  1957年 日本
  監督:川島雄三
  出演:フランキー堺
     左幸子

テンポもいいし、ズバズバっとしていてね、おもしろいんだよね。
落語の『居残り左平次』とあといくつかでアレンジして作っているんだけれど、とても良く出来ていてね。
川島雄三、この人は喜劇がとても得意だったから、そういう人はやっぱり腕が違うよね。

41. 若き獅子たち
  1957年 アメリカ
  監督:エドワード・ドミトリク
  出演:マーロン・ブランド
     モンゴメリー・クリフト

シネマスコープなんだけれども、白黒のコントラストが戦場のシーンをドラマティックに撮っていてステキですヨ。
たたき上げの辛口職業監督というかんじだね。

42. いとこ同志
  1959年 フランス
  監督:クロード・シャブロル
  出演:ジェラール・ブラン
     ジャン=クロード・ブリアリ

厭世的な視点から見ている、フシギなシャシンなんだけれども、なかなかうまい監督でね。
『刑事キャレラ血の絆』なんかもエド・マクベインの原作の中ではとても出来の良い作品だよ。

43. 大人は判ってくれない
  1959年 フランス
  監督:フランソワ・トリュフォー
  出演:ジャン=ピエール・レオ
     クレール・モーリエ

トリュフオーのこの映画、とても良いでしょ?
子供の使い方もとても上手くって、ボクは絶賛したんだけど、封切り間もなく引っ込んじゃってさ。
『大人は判ってくれない』なんていう日本題がいけないんだヨ。

44. 勝手にしやがれ
  1959年 フランス
  監督:ジャン・リュック・ゴダール
  出演:ジャン=ポール・ベルモンド
     ジーン・セバーグ

ゴダールは多作な人だけれど、ずーっとそのクオリティを保っていられるっていうのは、やっぱり才能があるんだよね。
『勝手にしやがれ』を見た時は本当に新鮮に感じたよね、今でこそさ皆マネしてるけれども。

45. ベン・ハー
  1959年 アメリカ
  監督:ウィリアム・ワイラー
  出演:チャールトン・ヘストン
     ジャック・ホーキンス

『ベン・ハー』のクライマックスシーン、あれは70ミリじゃないととてもあの迫力は出ないね。
サウンドトラックを六本使っているから、自分が巻き込まれてそこにいるみたいな感じで、本当によく撮影してるヨ。

46. おとうと
  1960年 日本
  監督:市川崑
  出演:岸恵子
     川口浩

これは宮川一夫のキャメラがすごく良くてね。
確かカンヌで映像の方で賞もらったんだと思うけどね。
ずいぶんたくさん撮り続けているよね。
夏十さん(脚本家の和田夏十/市川崑の妻)の支えもすごくあったんだと思うけどね。
『東京オリンピック』なんて色々酷評されたけれど、ボクは崑ちゃんらしくてさ、あれもとても良いと思ったよ。

47. かくも長き不在
  1960年 フランス
  監督:アンリ・コルピ
  出演:アリダ・ヴァリ
     ジョルジュ・ウィルソン

この人は編集のオーソリティーでね。
これは第一作だと思ったんだけれども、凄い話でね。
カフェの前を通った男が、戦争で死んだと思っていた夫にそっくりなんだよ。
そこのシーンがとても印象的でね。

48. 素晴らしい風船旅行
  1960年 フランス
  監督:アルベール・ラモリス
  出演:パスカル・ラモリス
     アンドレ・ジル

このシャシンはスペシャリストじゃないと撮れないよね。
ラストが特に良いんだけども、どんどんどんどん子供が追いかけて行くところ。
自分の子供を主演にしてずいぶん危ない事をしていて、後でラモリスは「とんでもないことしたと思った」と言ってたけどね。

49. 太陽がいっぱい
  1960年 フランス
  監督:ルネ・クレマン
  出演:アラン・ドロン
     マリー・ラフォレ

とても判りやすい映画で、とても映画らしい映画だと思うし、映画を見始めるのに入りやすい作品だよね、この主人公の気持ち、良く判るでしょ。
うまいテンポで進んで行くし、ラストがまたとても良くてね。

50. 地下鉄のザジ
  1960年 フランス
  監督:ルイ・マル
  出演:カトリーヌ・ドモンジョ
     フィリップ・ノワレ

とてもしゃれた作品だと当時思ったね。
口笛のメロデイーにのって、その主人公の子供の目で追っていくんだけれど、この監督は『さよなら子供たち』なんかでも実に子供の使い方がうまいしね。
『五月のミル』なんかも独特でおもしろいね。

51. 去年マリエンバートで
  1960年 フランス
  監督:アラン・レネ
  出演:デルフィーヌ・セイリグ
     ジョルジュ・アルベルタッツィ

この人はヌーベルバーグの先駆者でね。この作品は確かロブ=グリエっていう、当時論争を巻き起こした作家の作品を映画にしたものなんだけれど、今と昔とか、現実と非現実とかが色々と入り交じって判りにくいけれど、手法としてとても触発されたね。

52. 何がジェーンに起こつたか?
  1959年 アメリカ
  監督:ロバート・アルドリッチ
  出演:ベティ・デイヴィス
     ジョーン・クロフォード

ベティ・デーヴィスは若い頃から、おもしろい顔してるしね、とても魅力的でね、『黒蘭の女』なんか本当にきれいだったし、『イヴの総て』もとてもいいしね、気に入っていたんだけど、このデーヴィス、ものすごいでしょ。
まだそんな年寄りじゃないのにね、すさまじいね。

53. アラビアのロレンス
  1962年 イギリス
  監督:デヴィッド・リーン
  出演:ピーター・オトゥール
     アレック・ギネス

70ミリの傑作だと思うヨ。
ラクダが暴走してオトウールがケガした時、リーンが″まだやれるかい?″って聞いたんだって。
″ひどい!″って言ってたけれど、撮影に乗っている時のその監督の気持ちは判るよね。
でもボクはもっとやさしいヨ。

54. 地下室のメロディー
  1963年 フランス
  監督:アンリ・ヴェルヌイユ
  出演:ジャン・ギャバン
     アラン・ドロン

この人のサスペンスは一級品でね、おもしろいよ。
音楽の使い方もステキで、すごくモダンだし、ギャバンとドロンも性格がはっきり出ていて、とてもうまく使っている。

55. 
  1963年 アメリカ
  監督:アルフレッド・ヒッチコック
  出演:ティッピー・ヘドレン
     ロッド・テイラー

ヒッチコックの映画は、このミステリー少しつじつまが合わないっていうようなところもあるんだけれど、おもしろければ良いというのも映画の一つだと思うしね。
あの沢山の鳥は怖いよ。
本当に、どうやって撮ったんだろう。

56. 赤い砂漠
  1964年 イタリア・フランス
  監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
  出演:モニカ・ヴィッティ
     リチャード・ハリス

インド映画祭で一緒に象に乗ったことがあるんだ。
怖い監督が二人で象に乗ってるって記者たちが騒いでたけど、オレたちちっとも怖くないよ。
ジャーナリストが怒ってるところばかりおもしろがるからで、そんなことないヨ、と二人で言ってたんだけどね。
"年がら年中怒ってばかりいられるか!"てさ。

57. バージニア・ウルフなんかこわくない
  1966年 アメリカ
  監督:マイク・ニコルズ
  出演:エリザベス・テイラー
     リチャード・バートン

このエリザベス・テイラーって、すごいでしょ。
醜悪な女をさ、あの美人女優がなりふりかまわずやってるじゃない。
日本の女優さんたちもさ、きれいきれいばかりじゃなくて、どんな大女優になってもさ、エリザベス・テイラーのこの根性を見習って欲しいところ、あるんだよね。

58. 俺たちに明日はない
  1967年 アメリカ
  監督:アーサー・ペン
  出演:ウォーレン・ベイティ
     フェイ・ダナウェイ

アメリカに行った時、ずいぶん親切にしてくれてね。
ペンが『Mickey one』を作るとき、誰か良い俳優を紹介してくれっていうんで、藤原釜足を推薦したんだヨ。
日本では封切られなかったけれど、とてもステキな小品だった。
カマさんが「なんで推薦したんだ」って言うから「セリフ一つもないから!」ってイヤミ言って大笑いになったんだけどね。

59. 夜の大捜査線
  1967年 アメリカ
  監督:ノーマン・ジュイソン
  出演:ロッド・スタイガー
     シドニー・ポワチエ

原作もとても良いんだけれど、それをとても上手に映画にしているよね。
シドニー・ポワチエは大好きなんだけれど、あの賢い目がステキでね。
人種差別の色濃いところなのに、小気味良く解決していって気持ちいいよ。

60. 遥かなる戦場
  1968年 イギリス
  監督:トニー・リチャードソン
  出演:デヴィッド・ヘミングス
     ヴァネッサ・レッドグレーヴ

あまり話題にならなかったけど、ボクはとても良い映画だと思った。
すごく細かいところまでいきとどいて、たとえば戦場で人がゴロゴロ死んでいる所に″ブーン″とハエの音が入っていたりしてね。

61. 真夜中のカーボーイ
  1969年 アメリカ
  監督:ジョン・シュレシンジャー
  出演:ジョン・ヴォイト
     ダスティン・ホフマン

イギリス出身の男なのに、ニューヨークのあの病んだ感じをすごくよく出しているでしょう。
もちろん役者もすごくうまいんだけど、なんかすごく荒廃した都会の中で生きていってこれからどうしたらいいんだっていう、ああいうところがやりきれないヨね。

62. M★A★S★H
  1970年 アメリカ
  監督:ロバート・アルトマン
  出演:エリオット・グールド
     ドナルド・サザーランド

おもしろかったね。
もうガチャガチャしてるんだけど、シナリオはしっかりしてるしさ。
ブラックコメデイーなんだけど良い出来でね。
後で聞いたんだけど、原作者は外科医なんだって。
だから具体的でおもしろいんだよ。

63. ジョニーは戦場へ行った
  1971年 アメリカ
  監督:ダルトン・トランボ
  出演:ティモシー・ボトムズ
     キャシー・フィールズ

反戦映画っていうのは沢山あるけれども、戦闘シーンが出てくるととてもムズカしくてね。
ドンドンパチパチやってるとついカッコ良く思えてしまうところがあるでしょ。
だから、これこそ本当の反戦映画だと思う。

64. フレンチ・コネクション
  1971年 アメリカ
  監督:ウィリアム・フリードキン
  出演:ジーン・ハックマン
     ロイ・シャイダー

ビュンビュン車が追いかけまわしてさ、カーチェイスの初めみたいな作品だったって覚えてるけど、アクションが凄くっておもしろかったよ。
この頃のアメリカ映画はともかく車のシーンが多くてさ、ドア開けて乗って、駐車場から出ていってみたいにさ、車のとこ切ったら三分の二ぐらいになっちやうんじやないのって、よく言ってるんだけど。

65. ミツバチのささやき
  1972年 スペイン
  監督:ヴィクトル・エリセ
  出演:アナ・トレント
     イザベル・テリェリア

一見かわいらしい作品なんだけれど、実はマカフシギですごく怖い話でね、子供の待っている残酷なところがうまく出ていて。
子供達もうまいしね。
ライティングもキャメラワークもとてもいいタッチで、良い映画だよ。

66. 惑星ソラリス
  1972年 ソ連
  監督:アンドレイ・タルコフスキー
  出演:ナターリヤ・ボンダルチュク
     ドナタス・バニオニス

タルコフスキーとは、とても仲良しだったんだ。
弟みたいな気がしてね。
酔っ払って、『七人の侍』のテーマを一緒に歌ったりしたヨ。
水の表現なんて、その描写が一種独特だね。
本当にね、この映画を見てると地球に帰りたくなってくるんだヨ。

67. ジャッカルの日
  1973年 アメリカ
  監督:フレッド・ジンネマン
  出演:エドワード・フォックス
     ミシェル・ロンズデール

一つ一つ暗殺の準備を進めていく主人公を、すごく冷静に見て追っていく手法なんだけど、贅肉が無いっていうのか、簡潔でドキドキしてくるんだよ。
その感じがいいね。

68. 家族の肖像
  1974年 イタリアフランス
  監督:ルキノ・ヴィスコンティ
  出演:バート・ランカスター
     ヘルムート・バーガー

ヴィスコンティって本当の貴族だからね。
血というのか、育ったところがそうだからなのか、彼にしか出せない感じがあってね。
ボクも何度もお会いしたけれども、近寄りがたい人だったね。

69. ゴッドファーザーPARTⅡ
  1974年 アメリカ
  監督:フランシス・フォード・コッポラ
  出演:アル・パチーノ
     ロバート・デュヴァル

『ゴッドフアーザー』の三部作の中で『ゴッドファーザーPARTⅡ』がボクは一番好きでね。
非情な感じや、あの家庭の中のすごい感じが良く出ていて、ゾッとするようなところがあの音楽にのって心の中に入ってくるんだよね。

70. サンダカン八番娼館望郷
  1974年 日本
  監督:熊井啓
  出演:栗原小巻
     高橋洋子

熊井さんとは、たしかこの作品の前か後に一緒に食事してね。
とてもおとなしいマジメな人で、社会的な事を追求する方向の作品が多かったから、この映画では女の人の描き方も確かなんだとビックリしたヨ。

71. カツコーの巣の上で
  1975年 アメリカ
  監督:ミロス・フォアマン
  出演:ジャック・ニコルソン
     ルイーズ・フレッチャー

もうあんまり上手な役者が沢山出ていてね。
それぞれの人間が人生の中でどんなつらい事があってあんな風におかしくなっているのかっていうようなところまで、実にうまく表現してて感心しちやうヨ。
あの看護婦長もスゴイね!

72. 旅芸人の記録
  1975年 ギリシャ
  監督:テオ・アンゲロプロス
  出演:エヴァ・コタマニドゥ
     ペトロス・ザルカディス

素晴らしい人でね、心の深くまでじーっと見つめられているような、本当の大人ってアンゲロプロスみたいな人のこと言うんだという感じですよ。
この作品なんか特に、大人の眼差しそのものだよね。

73. バリー・リンドン
  1975年 アメリカ
  監督:スタンリー・キューブリック
  出演:ライアン・オニール
     マリサ・ベレンソン

この人には沢山傑作があるけど、この作品はローソクの明かりで感度の良いフィルムと特別なレンズで撮影したらしいんだ。
それが素晴らしい、とてもきれいな画面でね。
成功してるからね、その試みが。

74. 大地の子守歌
  1976年  日本
  監督:増村保造
  出演:原田美枝子
     佐藤佑介

この作品はなかなか良く出来ていてね、中でも原田美枝子がとっても良いんでね。
この子はきっと力をつけて来るだろうと思っていたんだ。
それで『乱』で出てもらったんだけど、楓の方は外国で大評判でね、本当によくやったと思うよ。

75. アニー・ホール
  1977年  アメリカ
  監督:ウディ・アレン
  出演:ウディ・アレン
     ダイアン・キートン

ウディ・アレンのシャシンを見ていると、この人すごいインテリだなという感じがして。
ボクのシャシンは単純で、そういうのじやないから、ボクの映画なんか嫌いなんだろうと思っていたら、リチャード・ギアがアレンはボクの大ファンだって教えてくれて、うれしかったよ。

76. 機械じかけのピアノのための未完成の戯曲
  1977年  ソ連
  監督:二キータ・ミハルコフ
  出演:アントニーナ・シュラーノワ
     アレクサンドル・カリャーギン

ニキータっていうのはよくしゃべる、白熊みたいな元気な男なんだけどね、実にほんとうにデリケートなシャシンを撮るんだよ。
『黒い瞳』なんかだって、本人を見たら、こんな奴がこれ撮るのって思っちやうヨ。

77. 父/パードレ・パドローネ
  1977年  イタリア
  監督:パオロ・タヴィアーニヴィットリオ・タヴィアーニ
  出演:オメロ・アントヌッティ
     サヴェリオ・マルコーネ

この二人の兄弟監督の作品は、映像自体も素晴らしいし、大変むずかしい原作を土台にしているという知的さとか、それはもちろんなんだけど、うまく言えないけれど、深遠な地の底からゆさぶられる物凄さがあるよね。
兄弟で力を合わせると色々な意味で監督することに幅も深さも出るだろうと、うらやましく思うね。

78. グロリア
  1980年  アメリカ
  監督:ジョン・カサヴェテス
  出演:ジーナ・ローランズ
     ジョン・アダムス

『アメリカの影』を見た時、ステキな作品だからホメようと思ったのに、テレて逃げちやってさ。
なかなか彼の作品が日本に入って来ないんで、どうしたのかと思っていたんだけれど、やっぱりすごい才能だったね。
ジーナ・ローランズ、名演技だと思う。

79. 遥かなる山の呼び声
  1980年  日本
  監督:山田洋次
  出演:高倉健
     倍賞千恵子

山田君にも言ったんだけど、何を尊敬出来るって、『寅さん』のシリーズをあれだけ撮り続けるっていうことだよって。
出てくる人の一人一人の性格がちゃんと書き込めているから出来ることなんだろうけど。

80. トラヴィアータ -1985・椿姫-
  1982年  イタリア
  監督:フランコ・ゼフィレッリ
  出演:テレサ・ストラータス
     プラシド・ドミンゴ

オペラを映画にしているんだけど、それってすごくむずかしいんだ。
ボクも小澤(征爾)さんにクドかれてオペラ演出してくれっていわれたけど、映画監督だからさ、出来ないって断ったんだけどね。

81. ファニーとアレクサンデル
  1982年  スウェーデン・フランス・西ドイツ
  監督:イングマール・ベルイマン
  出演:グン・ヴォールグレーン
     エヴァ・フレーリング

長い映画だけれど、もちろんキャメラも美術もすごくて、良い色なんだ。
ある一夜をずーっと追っているんだけど、こういう所で育ったんだろうなという具体的なちょっとしたエピソードがおもしろいしね。

82. フィツカラルド
  1982年 西ドイツ
  監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
  出演:クラウス・キンスキー
     クラウディア・カルディナーレ

アマゾン河を遡って本当にあの大きい汽船を山に引き上げて下すわけだから、すごい作業ですよ。
それをやってしまう精力が両面に出ているヨ。
これはまだ彼の作品を観る前の話だけど、すごく律儀な人で、会った時渡したい本があるんだけれど、今日出発しなくちやいけないからとあいさつに来て、それなのにまた次の日居るんだヨ。
飛行機キャンセルしてその本渡したいって、見つけたからって言うわけ。
そんなマジメさがあるから、ああいうシャシンが撮れるんだね。

83. キング・オブ・コメディ
  1983年 アメリカ
  監督:マーチン・スコセッシ
  出演:ロバート・デ・ニーロ
     ジェリー・ルイス

スコセッシは監督としてももちろん、俳優としてもとても良いけれども、人間として素晴らしいと思う。
カラーフィルムの問題や、フィルムの保管の問題や、映画人の老後のこと等、精力的に運動していてさ、エネルギーのかたまりみたいで、ああいう人間が日本の映画界にも欲しいね。

84. 戦場のメリークリスマス
  1984年 日本・イギリス
  監督:大島渚
  出演:デヴィッド・ボウイ
     坂本龍一

大島君とは監督協会のことなんかで色々話し合ったけれど、皆は短気だとか色々言うけど、すごく筋の通ったマジメな人なんだよ。
これからの日本映画のことは頼むよって言ってさ、何度か食事一緒にしたんだ。
この作品は、大変だったと思うよ、手を抜けないタチだからさ。

85. キリング・フィールド
  1984年 イギリス
  監督:ローランド・ジョフィ
  出演:サム・ウォーターストン
     ハイン・S・ニョール

カンボジアの内乱の話だけど、あんな小さな子供まで洗脳してしまう。
人間て本当に、おかしくなると判らなくなっちやうっていうのか、怖いよね。
戦争になればそういうことまで正しいという風になってしまうところが、まさに怖いんだヨ。
このカンボジアのガイドが本当に自然で、すごくうまくてステキだったね。

86. ストレンジャー・ザン・パラダイス
  1984年 アメリカ・西ドイツ
  監督:ジム・ジャームッシュ
  出演:ジョン・ルーリー
     エスター・バリント

彼の作品は全部ビデオ借りて来て見たんだけどね。
ワンシーン、ワンショットで余白がすごくいいんだよね。
黒みでつないだところも、シークエンスとシークエンスの間に実に映画だな~っていう。
これから楽しみだね。
古いフィルム使ったりしてお金使わなくても良い映画が撮れる、これも才能だという見本だと思う。

87. 冬冬の夏休み
  1984年 台湾
  監督:ホウ・シャオシェン
  出演:ワン・チークアン
     リー・シュジェン

『悲恋城市』なんていう大作、あれは歴史に精通していないとよく判らないところもあるけれど、すごく真摯な目をもっていて、素晴らしい作家だよね。
日本映画がマジメに撮っていた頃を彷彿とさせる。
ボクはこの作品がとても好きでね、とても気持ちの良い作品だよね。
これからがとても楽しみな人だね。

88. パリ、テキサス
  1984年 フランス・西ドイツ
  監督:ヴィム・ヴェンダース
  出演:ハリー・ディーン・スタントン
     ナスターシャ・キンスキー

『八月の狂詩曲』の時にヴェンダースと日本で対談したんだけれど、その対談そっちのけで「雨の降らし方クロサワサン上手いけれど、どんな風にやってるのか」とか、具体的な現場の話で質問攻めにあっちゃってさ。
ボクもその方が話がオモシロくて、編集者の人は困っていたけどね。

89. 刑事ジョン・ブック/目撃者
  1985年 アメリカ
  監督:ピーター・ウィアー
  出演:ハリソン・フォード
     ケリー・マクギリス

この映画はアーミッシユという特殊な人々の世界を描いている訳だけれど、その生活もちゃんと判りながらドラマの方もちやんと進んでいって、すごくちゃんとしてるんだよ。
土台がしっかりしてる感じだね。

90. バウンティフルヘの旅
  1985年 アメリカ
  監督:ピーター・マスターソン
  出演:ジェラルディン・ペイジ
     ジョン・ハード

ほんのちょっとした題材でもここまでちゃんとした映画になるんだよね。
お金をかけなくても質の良い作品は作れるというお手本みたいなシャシンだから、若い人に見てもらいたい映画の一本です。

91. パパは、出張中!
  1987年 ユーゴスラビア
  監督:エミール・クストリッツァ
  出演:モレノ・デバルトリ
     ミキ・マノイロヴィッチ

この人の作品を初めて見た時はビックリしたよ。
ユーゴスラビア出身の人だけれど、すごくまだ若いんだよ。
だって全部淡々と素晴らしい作品撮るんだから、とても力がある。
カンヌでもその話出たんだ。
すごい才能が色々な国から出てくるからさ、オチオチしてられないよねって。

92. ザ・デッド「ダブリン市民」より
  1987年 アメリカ
  監督:ジョン・ヒューストン
  出演:アンジェリカ・ヒューストン
     ドナルド・マッキャン

黒い馬や馬車が出てくるでしょ。
あれが死の影なんだよね。
酸素吸入しながら、そういう状態で撮ったわけだから、鬼気迫っていてもの凄いんだ。
彼は死ぬ時ね、映画会社の上層部に腹を立てていて"銃はあるか、やっちまえ!"って言って死んだんだヨ。

93. 友だちのうちはどこ?
  1987年 イラン
  監督:アッバス・キアロスタミ
  出演:ババク・アハマッドプール
     アハマッド・アハマッドプール

良い監督は皆そうだけど、会ってみたら本当に良い人でさ。
出てくる人が余りにも普通でしかも上手すぎるから、どう撮ったのと聞いたら、「シロウトばかりなので本当に洗濯物終わらせなきゃ、宿題ちゃんとやんなきゃって、本当に思ってやっている」って言ってたな。

94. バグダッド・カフエ
  1987年 西ドイツ
  監督:アッバス・キアロスタミ
  出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト
     ジャック・パランス

子供たちから、良いから見ろって言われて見たんだけど、いや楽しんじゃったよ。
色の使い方がすごくいいんだ。
学ぶところがいっぱいあるよ。
役者もとても自然だしね、ふっと『どん底』を思い出したりもしたけれど、いや~映画になってるな~って、おもしろくておもしろくて二度も見ちゃったヨ。

95. 八月の鯨
  1987年 アメリカ
  監督:リンゼイ・アンダーソン
  出演:ベティ・デイヴィス
     リリアン・ギッシュ

僕がイギリスで賞をもらった時、この監督とは評論家としてお会いしたんだ。
ノンフィクションも撮っていた人だし、眼力がたしかだったんだね。
劇映画を撮るようになるとは思わなかったけれど、『Ifもしも・・・』でやっぱりと思って、『八月の鯨』を見てさすがに力があるんだとつくづく思ったよ。

96. 旅立ちの時
  1988年 アメリカ
  監督:シドニー・ルメット
  出演:リヴァー・フェニックス
     クリスティーン・ラーチ

主人公が車で町を出ていく時、ドアがパンと開いて犬を置いて行くところなんて素晴らしいね。
ルメットとは一番の仲良しでさ、ニコニコしたやさしいオヤジなのに、ハードボイルド的なニューヨークの刑事の作品なんかはシリアスですごいものがあるヨ。
ニューヨークのワン・ブロックは広いからローラースケートで走りまわるんだって。
助監督がついていけなくてオモチャ屋に飛び込んで、ローラースケート買って追っかけたけど、セカンドの助監督は売り切れていて買えなくてうしろを走って追いかけたっていう話なんかを、おもしろおかしく話してくれるんだ。

97. となりのトトロ
  1988年 日本
  監督:宮崎駿
  出演:日高のり子
     坂本千夏

アニメだけれど、ボクとても感激しちやってね。
ネコバスなんてすごく気に入っちやって。
だって思いつかないでしょ。
『魔女の宅急便』なんて、泣いちやってね。
本当、映画に来たらうれしいっていう才能がアニメの方に皆行っちゃってるからね。
映画界もがんばらないとね。

98. あ・うん
  1989年 日本
  監督:降旗康男
  出演:高倉健
     富司純子

村木忍(美術)とは長いつきあいだね~。
村木(与四郎/美術)と熱々で、二人肩寄せ合ってオープンセットに居たりした頃からだからね。
美術が良いよね。
なつかしいじゃない?
ああだったよね、あの時代は。
向田邦子は本当にしっかりしたホンを書く人だったよね。
惜しいことをしたよね。
『あ・うん』の奥さんがちょっとうちの喜代子(矢口陽子)に似てるよね。

99. 美しき諍(いさか)い女
  1991年 フランス
  監督:ジャック・リヴェット
  出演:ミシェル・ピッコリ
     ジェーン・バーキン

ボク本当はこれやってみたかったんだ。
バルザックの原作でね。
優れた画家っていうのはさ、ボク達が見えていないところまで見えている。
ボクなんかさっさっさって描いちゃうけど、違うんだよ。
もっと色々なものが見えているから納得いかないんだ。
むずかしい題材を大変良く撮っているヨ。

100. HANA-BI
  1997年 日本
  監督:北野武
  出演:ビートたけし
     岸本加世子

『その男、凶暴につき』を見た時から、才能あると思ったね。
才能のある人の最初の方の作品は色々とやってみたいことがあって、まとまりなく見えるんだけどね、力があってほとばしり出る物があるからなんだよ。
ズカズカと踏み込んで行く思いっきりの良いところもあるし、楽しめたよ。
出演者一人一人の存在感がしっかりでているところが素晴らしいね。