籠の中の乙女

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公開日 2012/08/18  96分


★★★★★★ 6.0


『ロブスター』のヨルゴス・ランティモスの2009年作品。
カンヌ「ある視点」部門受賞作。

『ロブスター』同様に、シュールな物語こそが
この監督の持ち味なのだろう。
オープニング、カセットレコーダーから流れる文法教育。
単語とその意味を紹介し、文例が流れるのだが、「海」は「革張りの椅子」、「高速道路」は「強い風」、「遠足」は「固い床材」。
この時点では何を意味しているのかさっぱり解らない。
後々解ってくるのだが、主人公家族の屋敷の外にあるものは、屋敷の中で見られるものに変換し、屋敷の中で生活が完結できるようにしているのだ。

冒頭の単語とその意味を憶え続けていることは難しく、つまりこの2回観るもしくは復習しなければ、意味が汲み取れないという構成を採っている。これは私には面白い演出とはいえない。

さて、何故この異常なまでの閉鎖的な生活を送っているのかについて、明確な台詞はないのだが、兄弟の1番上がどうやら亡くなっていることが関与しているらしいことは窺える。
亡くした原因は語られないが、それが理由で、特に母親に異常を来しているようだ。
母親の異常さは尋常でなく、息子の性処理相手を探して、あてがうというキテレツさなのだが、更に、それが不都合になると娘姉妹に相手をさせるという"超"異常さだ。

外には出られないルールに縛られた子供たち。
子供たちにとっては、このルールはもはや観念的なものになっている。
変な例えだが、尿を取ったコップを幾ら綺麗に洗っても、それで水を飲むことができないような…、目に見えず、頭では理解できても身体を動かすことはできないように、"家"に縛られている感じがする。
そしてその縛りの期限は「犬歯が抜ける(生え変わる)まで。
(これが原題『Dogtooth』の由来)
犬歯は最も寿命の長い歯で、老人になっても大概は抜けないという。
両親の執念が窺える。
だから、長女は実際に抜いてみせないことには、外に出られないのだ。

屋敷の外に出た飛行機の模型を車で拾いに出る父親は、地面の上に直接立つことをしない。
外の地面には立てないことを示しているのだが、車のトランクに潜んだ長女は外界の地面に立つことができるのか。
また父親の勤め先の工場もかなり妙な雰囲気で、入り口は解放されておらず何故か検問がある。他の車の出入りも見当たらない。

「親が子供に与える影響」を極端にデフォルメした作品とも受け取れる。
大なり小なり、子供は親の影響いや刷り込みを免れることはできない。

爪を切るシーンや猫を殺すシーン、犬歯を抜くシーン等、痛々しい描写が多い。
『ロブスター』でも見られたように、痛々しいシーンはこの監督の得意とするところなのだろう。

性的なシーンが多い割にエロティックな表現ではなく無機質なそれは、受けつけ難いというより、気味の悪いシーンでもある。
ただ逆にいうなら、エロもまた刷り込みなのだろう。
何の情報もない中で育った人間の性的欲求とはああいった無機質なものなのかもしれない。

作品のリズムやユーモラスさにおいては
『ロブスター』の方が洗練されていると思う。

『ロッキー』『ジョーズ』『フラッシュ・ダンス』を観て外への渇望が湧く。
いいじゃないか。

原題  DOGTOOTH / KYNODONTAS

製作国 ギリシャ
製作 Boo Productions
製作 Greek Film Center
製作 Horsefly Productions
配給 彩プロ AYA PRO

監督 ヨルゴス・ランティモス Giorgos Lanthimos
製作 ヨルゴス・ツルヤニス Yorgos Tsourgiannis
製作総指揮 イラクリス・マヴロイディス Iraklis Mavroidis
脚本 ヨルゴス・ランティモス Giorgos Lanthimos
脚本 エフティミス・フィリップ Efthymis Filippou
撮影 ティミオス・バカタキス Thimios Bakatakis

出演 クリストス・ステルギオグル Christos Stergioglou
出演 ミシェル・ヴァレイ Michele Valley
出演 アンゲリキ・パプーリァ Angeliki Papoulia
出演 マリー・ツォニ Mary Tsoni
出演 クリストス・パサリス Hristos Passalis
出演 アナ・カレジドゥ Anna Kalaitzidou