小さいおうち

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公開日 2014/01/25  136分


★★★★★★★ 7.0


山田洋次作品というと様々な偏見があるかもしれないが(俺もある)、いやレベル高いよ。
日本映画の実力に安心した。
さて、本作の物語には裏の裏がある。
その全貌は観客にしか分からない設定で、構成はミステリーに近い。
とはいえ難解な物語ではない。
主人公の自叙伝では語らることのないエピソードがあることに気が付きさえすれば。
例えば、主人公の部屋にちいさなおうちの絵が掛けられていたこと。そしてこの絵はちいさなおうちがあった時代に描かれただろうこと。
奉公先の子供を交えて、板倉(吉岡秀隆)と江ノ島に海水浴に何度も行っていたことなど。
つまりは主人公の自叙伝に描かれなかった板倉への想いが、この作品の核である。
作品は若者を出征に駆り立てた戦争を単に非難するだけでなく、恋を成就させない貧しい時代をも訴えている。
主人公の嘘は、恋する相手を自分の住むうちで女主人に逢わせたくないだけでなく、自らが恋する人に逢いにいける口実を作った見事なものである。
それは恋心のみでなく、美しい女主人、その裕福さ、時代への反発だったのかもしれない。
巧みな脚本だ。
ここで上記の手紙の嘘について、別の解釈を。
主人公には女主人に対する同性愛的な恋心があって、そのために男に逢いに行かせなかったという解釈。確かに女主人が主人公の手を握るシーンや女主人の親友であるかなり男性ぽい女性に悩みを打ち明けるシーンが伏線として受け取れる。
この辺りの解釈は観客に委ねられているように、曖昧に描かれている。
奉公した家を慕う気持ちは当然あっただろう。
当時もその後にも流した涙には偽りはないだろう。だがその一方で、それは忠誠心のようなもので、終盤に奉公先の息子が言う「当時は気がつかなかった不本意」も交わっていたのかもしれない。
政治や経済、戦争について評論する者達を揶揄しながら、何も語ることを許されなかった弱者の復讐物語とさえ思えてしまう。
それは何の見返りをも、もたらすものではなかったが。
その意味で誰も幸福にならない時代を表現しているのだろう。
成就しなかった恋物語などでは片付けられない。
奉公先の奥さんから託された手紙を何故開かなかったのか、そしてその手紙をなぜ親戚の若者に託したのか。
いつかこの若者は気づき、出版できない物語を理解するのだろう。
それこそが本作が描く希望である。

原題  小さいおうち

製作国 日本
製作 松竹
製作 住友商事
製作 テレビ朝日
製作 博報堂DYメディアパートナーズ
製作 衛星劇場
製作 日本出版販売
製作 ぴあ
製作 読売新聞
製作 TOKYO FM
製作 博報堂
製作 GyaO!
製作 朝日放送
製作 メ~テレ
製作 北海道テレビ
製作 北陸朝日放送
配給 松竹

監督 山田洋次 Yamada Yoji
製作 大角正 Ohsumi Tadashi
製作 大谷信義 Ohtani Nobuyoshi
製作 中村邦晴 Nakamura Kuniharu
製作 平城隆司 Hirajyou Takashi
製作 深澤宏 Fukazawa Hiroshi
製作 斎藤寛之 Saito Hiroyuki
製作総指揮 迫本淳一 Sakomoto Junichi
原作 中島京子 Nakajima Kyoko
脚本 山田洋次 Yamada Youji
脚本 平松恵美子 Hiramatsu Emiko
撮影 近森眞史 Chikamori Shinji
美術 出川三男 Degawa Mitsuo
美術 須江大輔 Sue Daisuke
衣装デザイン 松田和夫 Matsuda Kazuo
編集 石井巌 Ishii Iwao
音楽 久石譲 Hisaishi Joe
音楽プロデューサー 小野寺重之 Onodera Shigeyuki

出演 松たか子 Matsu Takako
出演 黒木華 Kuroki Haru
出演 片岡孝太郎 Kataoka Takataro
出演 吉岡秀隆 Yoshioka Hidetaka
出演 妻夫木聡 Tsumabuki Satoshi
出演 倍賞千恵子 Baisyo Chieko
出演 橋爪功 Hashizume Isao
出演 吉行和子 Yoshiyuki Kazuko
出演 室井滋 Muroi Shigeru
出演 中嶋朋子 Nakajima Tomoko